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第72話補完(ネタバレあり)
「蒼樹嬢 寒くてもよければバイクで送っていくが」
「はい」
この自然ななりゆきにより、福田は蒼樹を送っていくことになった。
なんてことはない、ただこんな夜遅くに女の一人歩きはよくないという平丸の意見によるものだ。
初めに蒼樹を送っていこうとしたポルシェがたまたまレッカー移動されてしまい、それで福田に出番が回ってきただけだ。
そう、ただの成り行きだ。
自分と同じ白いヘルメットを手渡すと、蒼樹は少し戸惑いながら受け取った。
多分、ヘルメットを被ると綺麗に整えた髪形が崩れるために躊躇したのだろう。しかし、ヘルメットを被らないわけにはいかない。
不慣れな手つきは、なかなかヘルメットのベルトを締めることが出来なくて、仕方がなく福田が蒼樹のヘルメットのベルトを締めた。自分用ではない、比較的新しいヘルメットだから、ベルトが固かった。それに寒さで指先がかじかんで、ベルトの長さを調節するという細かい作業がなかなか上手くいかなかった。福田よりも背の低い蒼樹はやや上を見上げるような状態で、ベルトを締めやすくしてくれているが、それが妙にじっと見られているような感じがしてむず痒かった。
「ほらよ、」
やっとのことで、ベルトを締めると、ぽんと頭を叩いた。ひんやりと冷えたヘルメットの冷たさが手袋をしていない手にじかに伝わってきた。
そして、福田は蒼樹を後ろに乗るように言うが、ロングスカートの蒼樹は一人では乗れなかった。手を貸してやると、優しい温かさがじんわりと分かった。
手袋でもあれば冷えなくてすむんだろうな、と思いながらも、自分の分すら用意していない福田はなにも出来なかった。
蒼樹が後ろに座ると、自分は前の席に座った。
「じゃあ、行くぜ」
「はい、お願いします」
キーをまわし、エンジンをかけると冷えたモーターが大きな音を立てて動き始める。
すると、蒼樹が福田の腰に手を回してきた。それもそうだ、掴まるところなどないからだ。しかし、福田は一瞬驚いた。細い腕がぎゅっと自分の腰にしがみつく。ダウンジャケットを着ていなかったら、さぞ驚いていたことだろう。後ろの蒼樹を見ると、フードのファーに頬を当てるようにして、ぎゅっとくっついている。
そんなにくっつかなくっても大丈夫だぜと言ってやろうと思ったが、こんなときでないと蒼樹が福田に密着することなどないと思い、何も言わずにバイクを走らせた。
冷たい風が頬を切っていく。しかし、背中には柔らかな温かさがある。意識しなくはなくても、勝手に意識がそこに集中するから、俺は乙女心が分からないなんて蒼樹にののしられるのだろう。
「蒼樹嬢、」
「はい?」
「やっぱいい、なんでもない」
何か話でもしようかと思ったが、バイクの大きなモーター音のために声を張り上げなければならなくて、疲れるからやめた。
冷え切った空気が喉の奥まで入ってくると、体の芯から冷やされる気がする。
後ろに過ぎ去っていく街灯が白い光の線を描く。新妻の家から蒼樹の家までそんなに距離が離れていないため、あっという間についてしまう。それが少し寂しい気がした。
「着いたぜ、ここでいいだろ?」
「はい」
蒼樹の家の前の公園で下ろした。
バイクに乗ったときと同じように、手を貸してやる。白い手が自分の手を取る。すぐに離れるかと思いきや、蒼樹は福田の両手を包み込むようにした。寒い空気でかじかんでいる福田の手に、はぁっと息をかける。
「おいっ、」
驚いて手を引っ込めようとすると、しっかりと余計にしっかりと掴まれてしまった。一回り小さいけれども温かい手はとても優しくて、心からあったまる気がした。
「こんなに、冷たくなってしまって…」
「別に、かまわねぇよ」
こんな風に手を握られるとは思ってはいなかったが、寒さがどこかに吹き飛んでいく温かい気持ちになった。
「ほら、ぱっぱと家に帰れよ、冷えるだろ」
「本当に、ありがとうございました」
蒼樹はぺこりと頭を下げると、家に帰っていった。
301号室の電気が付くのを確認すると、福田はまたバイクにまたがった。
今日はなんてことのない、ただクリスマスだ。
年中無休の漫画家にとってはただの平日と大差ない。
しかし、今年はラッキーかもしれない。
つくづく、きよしこの夜は俺の為にあるようなものらしいと思った。
雲一つない寒空に、温かい息を吐き出した。
冬空と温かい手
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